撤退が国際社会の総意である。ロシアのプーチン大統領は決議を真摯(しんし)に受け止め、軍をただちにウクライナから撤収させなければならない。
国連総会の緊急特別会合で採択されたロシア非難決議は、日米など96カ国が共同提案し、加盟193カ国のうち141カ国が賛成した。反対は、当事者であるロシアのほか、北朝鮮などわずか5カ国だった。
決議は、ロシアのウクライナ侵攻に最も強い言葉で遺憾の意を表明し、プーチン氏による「特別軍事作戦」の宣言や核部隊の警戒態勢引き上げを非難した。即時、無条件の軍の撤退を要請した。
決議の採択に先がけ、ロシアが国連安全保障理事会で、同趣旨の非難決議案を、握りつぶしたことに留意せねばならない。
15理事国のうち、11カ国が賛成し、中国など3カ国は棄権したが、ロシアは常任理事国の持つ拒否権を行使し、退けた。
これを受けて招集された緊急特別会合での決議案採決は、全国連加盟国に開かれた、安保理での採決のやり直しである。総会決議は安保理決議と違い、法的拘束力を持たないが、だからといって、プーチン氏が軽んじることがあってはならない。
2月28日から3日間にわたって開かれた会合では、約120カ国の代表が意見表明し、相次いでロシアの侵攻を非難した。
鮮明になったのは、外相が登壇したドイツをはじめ、欧州諸国の対露結束への断固とした姿勢だ。日本も歩調を合わせ、さらなる圧力強化を図るべきである。
ロシアの国際的孤立は想像以上の速さで深まっている。国内でも抗議デモが広がりを見せている。プーチン氏はなぜ、自身が危うい立場にあると考えないのか。
気がかりなのは、非難決議案採決を棄権した中国やインドの動向である。ロシアに対する制裁は安保理でなく、米欧や日本がそれぞれ単独で実施しており、中国やインドが救済の手を差し伸べる可能性がある。対露圧力に抜け道があってはならない。
米欧や日本がロシアへの圧力強化を模索する間もロシア軍の進撃はやまず、ウクライナでは民間人の犠牲者が増えている。
重要なのは、一刻も早く戦闘を停止することだ。ロシア軍は速やかに攻撃をやめ、ウクライナから立ち去るべきである。
ついにロシアがウクライナに攻め込んだ。戦争上手のロシア軍のことだ。ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長は、将棋を指すように緻密な計画を遂行していることだろう。プーチン大統領は、既に制圧しているドンバス地方のドネツク、ルガンスク両州の傀儡(かいらい)政権にウクライナからの独立を促し、ロシア系住民の保護を口実にロシア軍を送り込んだ。
その後は、住民投票とロシア併合歓迎の声明が待っている。ロシア軍は、その前にウクライナ軍の抵抗を排除せねばならない。北大西洋条約機構(NATO)は直接の軍事介入はしない。米軍増派も東欧諸国の不安払拭という色が強く、プーチン大統領は西側の軍事的な手詰まりを見切っている。
ウクライナは、西側を向いている。スラブ系とはいえポーランドとロシアに挟まれたコサックの伝統を持つ国である。
西ウクライナ人は宗教もロシア正教と異なり、カトリック系の東方典礼教会である。西ウクライナは西側に入りたい。しかもロシアの経済停滞は続き、今では韓国並みのGDPでしかない。ロシアの民主主義は名ばかりで反体制派は投獄される。多くのウクライナ人が、バルト三国に残ったロシア系住民が豊かな社会で自由を謳歌しているのを羨望のまなざしで見ている。
しかし、ロシアにとって、キエフは、キエフ公国が生まれたロシアの始祖の地である。日本でいえば京都か奈良に匹敵する。ロシアはウクライナを決して譲らないであろう。そもそもロシアは冷戦で負けたと思っていない。米国と和議を求めたにもかかわらず、NATOが裏切って陣地を一気に東進させたと思っている。
ウクライナとベラルーシは何があっても死守するというのが、プーチン大統領の決意である。そのプーチン氏を激怒させたのがキエフのマイダン広場での親西側住民による大規模デモから始まる2014年の親ロシア派大統領であったヤヌコビッチ氏の国外逃亡であった。
プーチン大統領の答えは直截(ちょくせつ)だった。クリミア併合である。フルシチョフ書記長によってロシアからウクライナに強引に所属替えさせられたクリミア半島は、ロシア系の住民が多く、さしたる抵抗もなく制圧と併合は成功した。
この時プーチン大統領が同時に押さえたのが同じくロシア系住民の多いドンバス地方であった。ドンバス地方はアゾフ海の奥の対露国境にあり、ロシアが本気で侵攻すればひとたまりもない。プーチン大統領はドンバスを人質に取ったつもりだったのかもしれない。
しかし、クリミア半島を奪われたウクライナは、どんどんロシアを離れて西側に傾斜していく。痺(しび)れを切らしたプーチン大統領は、ドンバスの独立を承認した。すぐに併合されるだろう。「ウクライナなどいつでも捻(ひね)り潰せるのだ」という意思表示である。
クリミア半島併合に際して虚を突かれた米国の権威は失墜した。バイデン大統領は、その時の副大統領である。バイデン大統領の動きは早かった。ロシア軍の態勢に関するインテリジェンスを公表しロシアのウクライナ侵略反対という国際世論を喚起することに成功した。「先に手を出したのはウクライナ軍だ」というロシア軍の宣伝は国際社会の冷笑を買った。
しかしプーチン大統領は、軍事的にはロシアの方が圧倒的に有利だと知っている。プーチン大統領は、勝負に出た。一気に首都キエフの制圧に動いた。米露両国に核戦争はない。ならばロシアの武力行使をどこまで米国が我慢するのか。ここはアメリカの度胸試しだとプーチン大統領は考えているであろう。見どころは、どこで停戦が実現するかである。
米国の打つ手は、先ずはウクライナ軍がどれだけ頑張るかにかかっている。西側は、情報面、金銭面、武器供与等で様々なウクライナ軍支援を行うであろう。ロシアの予想に反して、ウクライナ軍も銃をとった市民も歯を食いしばって頑張っている。たとえキエフを制圧しても、大多数のウクライナ人はロシアの間接支配に背を向けるであろう。
米国が持つ奥の手は、金融制裁である。象徴的な個人制裁や米国内でのロシア系銀行の操業不許可くらいでは、ロシアには堪(こた)えない。イランの石油輸出に対して行ったように、ロシアの主要銀行に加え石油ガス産業のドル決済拒否に踏み込むかどうかである。米国の本格的金融制裁は産油国であるロシアには痛い。
そうなれば、ロシアのエネルギー資源は西側の市場から締め出される。エネルギー価格は急騰し、世界経済は大混乱するであろう。それが平和と秩序の維持のためであれば、西側諸国は痛みに耐えて固く結束する必要がある。日本は、同じ修正主義国である中国の習近平主席が、西側の対応を固唾をのんで見守っていることを忘れるべきではない。
衆院憲法審査会でオンラインによる国会審議の是非が討議され、共産党を除く各会派は、可能とすべきだとの認識で一致した。そうであるなら、国会は速やかに憲法改正を発議し、国民投票の判断を仰いだらどうか。
憲法第56条は、衆参の本会議について「総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」と定めている。
これまで56条の「出席」とは、国会議員が本会議場に実際に参集することだと解釈されてきた。国会の委員会や公聴会、地方議会の本会議もこれにならっている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に直面した各国の議会は相次いでオンライン審議を導入した。発達した科学技術の成果を生かした対応だ。憲法が時代に合わぬなら、憲法を変えるべきである。
日本の国会は、コロナ禍が始まってから2年を経てもオンライン活用に背を向けてきた。コロナ対策として民間企業にはテレワークを要請しているにもかかわらず、ちぐはぐな対応だ。
予算委員会の審議は「密」にみえる。本会議の出席議員を減らす「間引き」策が講じられているが、緊急避難的措置とはいえ、なるべく多くの議員が討議に加わるべき議会の本質にそぐわない。
オンライン審議はすでに、大阪府議会など地方議会の委員会審議では、本会議以前の予備的な審議という理由で認められている。
感染症や大災害、有事において議員が本会議場や委員会室に集まれないことはあり得る。危機でも議会の機能を発揮させるためにオンライン審議を実現したい。
自民以外の多くの会派は、憲法解釈の変更で実現すればよいとの立場だ。いくつかの会派は憲法審査会の場で詳細な制度設計の議論をするよう求めているが、それは本末転倒である。
金科玉条のごとく護憲に固執すれば、憲法はますます時代に合わなくなる。緊急事態条項や9条などの改正論議も後回しとなる。
まず、オンライン審議を認める条文へ憲法を改めたらいい。憲法審査会はそのための憲法改正原案を作り、国会は憲法改正を発議して国民の意思を問う方が分かりやすい。表決での議員の自由意思を保証する仕組み作りなどの検討課題はあるが、詳細な制度設計は議院運営委員会に任せればよい。